予算管理にクラウドサービスを適用することが一般的になってきました。これによって、エクセル資料のとりまとめに要していた膨大な工数が削減され、予算集計に必要な期間が短縮されるなど、大きな効果を挙げている企業様が多いかと思います。
部門別P/L予算が取りこぼす領域
一方で、そうしたシステムを導入すれば予算管理に関して十分対応できた、ということではありません。多くのクラウドサービスは、部門別P/L予算を前提としていますが、それでカバーされていないが、予算管理上は重要だという領域は相当あります。
多くの企業にとって大事な領域のひとつは売上予算管理でしょう。売上予算や売上見込みにどれだけの裏付けがあるか、部門別の売上高だけではわかりづらいと思います。売上予算数値の妥当性や売上見込の確実性を高めるには以下のような対応が必要です:
営業活動に紐ついた括りで売上実績を把握し進捗状況を評価する。商品群別や得意先、あるいは営業担当別といった括りが大事でしょう。こうした括りでのデータ集計は意外に厄介です。トップからみてわかりやすいような商品あるいは得意先の括りがマスターに無く現場データに付与されていない場合が多いのです。経理/企画は、エクセルを駆使してそうした括りで実績数字を集計しトップに報告しますが、現場ではその括りに何が含まれているかわかりません。そうして、経営報告が現場活動から遊離してしまいます。トップと現場をつなぐデータベースが必要です。
実績提供に加えて、現場の活動に即した括りで計画や見込みを集約する。見込みの精度を上げるために、財務会計上の売上とはなっていないが手の内に入っている確定受注データを提供し、あるいは現場にて入力できる仕組みにすることも可能でしょう。受注残だけでなく、そのうちのどれだけが今期の売上となるのかがわかることも大事です。加えて、業種によっては、未受注の見込みを得意先別や案件別に入力し、集約することが予測精度の向上に役立つかもしれません。
売上に関連する非会計の経営データを共有する。 業種によっては、財務報告上の売上高が営業現場での肌感覚に合わない場合があります。現場では、医薬業なら実消化(卸から施設への出荷)が大事ですし、百貨店などではテナントの売上高も含めた取扱高、弊社のようなSaaSビジネスでは、契約残高であるARR(年間経常収益)などがむしろわかりやすい数字です。売上管理ではこうした数字も扱うべきでしょう。現場寄りのこうした数字の趨勢をもとに財務上の売上高を見込むのは、経理/企画部門の役割かもしれません。
以上のような、活動に即した予算管理は、現場に展開してこそ価値があります。経理/企画そして営業推進部といった本社部門におけるエクセルメタボを解消するとともに、営業拠点やエリアのひとびとも経営管理の主体として巻き込んでいくべきです。予算管理システムがこれまで対象としてきたよりはるかに多くのユーザーを支援することが必要です。
予算管理システムでの対応ーー新規構築と補完
部門別P/Lに特化した従来型の予算管理システムでは、多くの場合、こうした対応は困難です。それらのシステムは、現場の人々をユーザーとして想定していないために、その人々にとって意味のある詳細データを扱えず、また、ユーザーインターフェースは、とおり一遍の予実対比表中心です。
一方、BI(ビジネス・インテリジェンス)は、基幹系システムにすでに存在するデータを、マスターにすでに存在する括りで提供することには長けていますが、上述したような、経理/企画での機動的なデータの括り直しと詳細データへの紐付け(ドリルダウン)や、さらにはその括りでの計画や見込の入力は、十分にサポートできない場合が多いでしょう。
fusion_place であれば、様々な軸で経営数値を分析しかつリアルタイムで更新できる多次元データベースを駆使して、こうした数字の扱いを予算管理システムに組み込んでいくことができます。実際、多くのお客様ではそのような対応をされています。fusion_placeでの予算管理は、部門別P/Lを超えた、事業活動志向の予算/見込管理なのです。
とはいえ、予算管理システムは構築済なのでそのまま活かしたいと考える企業も多いでしょう。部門別予算管理には、配賦など複雑な要素があります。複雑な要件に対応してせっかくシステムを構築したのなら、しばらくは活かしたいと考えるのが自然です。
そうした場合、現行の予算管理システムはそのままに、 売上管理に特化したシステムをfusion_place で構築し、その前方(つまり現場寄り)に置く、というハイブリッドなアプローチもあります。その場合、売上管理システムは、複雑な要件に対応する必要が無いので、簡素になります。予算管理システムへのこれまでの投資が無駄になるわけではありません。
経営管理DXへ
部門別P/Lを中心とした予算管理システムの構築は、経営管理システムを整備していく上での第一歩であることは間違いありません。一方で、「経営管理DX」と言い得るレベルを求めるならば、現行の部門別予算管理を効率化あるいはスピードアップするだけでなく、経営管理のあり方そのものを進化させていく必要があります。
ひとつの方向性は、投資家視線に寄りそってROICやキャッシュフローといった要素を導入していくことでしょう。そしてもうひとつは、今回のお話のように、現場の事業活動と予算管理を連携させていくことではないでしょうか。