前回は「トランザクションベースド・プランニング」という概念が生まれてきた背景、システム化のポイントなどを見てきました。その中で、予算の明細と実績データをいかに突き合わせて比較、分析、管理するかということが、最も重要なポイントであるとお話しました。 今回はその具体的なアプローチを、事例を交えながら見ていきたいと思います。
■予算と実績の突き合わせのアプローチ
予算と実績を勘定科目別に比較して、差異を把握するということはどの企業でもやっているでしょう。場合によっては実績数値をドリルダウンし、その内訳を分析するといったことまで実現しているかもしれません。本稿でいうトランザクションベースド・プランニングとはそのレベルに留まりません。予算の明細を予算管理システム上で管理し、いかに実績と比較、突き合わせて分析できるかを検討していきましょう。実現方法としては以下の2つの方法が考えられます。
・予算(予算番号別)と実績(伝票別)を「勘定科目レベル」で突き合わせる方法
予算は予算番号別に保持し、実績は伝票明細別に保持している場合、突合するキーがないので、同一の勘定科目の内訳をそれぞれ数件ずつ突き合わせて分析することになります。システム化すると以下の図のようになります。
伝票明細データに予算番号を保持する、あるいは伝票明細データを取り込んだ後に予算番号と紐づけることで、予算番号レベルで予算と実績を突き合わせることが可能となります。各予算立案部署では自分たちの管理単位である予算番号レベルで予実管理ができますので、差異要因の可視化、各現場のマネージャの管理レベル向上に寄与し、ひいては企業全体での業績管理の水準向上につながります。実績については、予算番号別の集計値から、さらに詳細な伝票明細にドリルダウンして分析することも可能となるでしょう。
・予算と実績を「予算番号レベル」で突き合わせる方法
伝票明細データに予算番号の情報を保持する、あるいは伝票明細データを取り込んだ後に予算番号と紐づけることで、予算番号レベルで予算と実績を突き合わせることが可能となります。各予算立案部署では自分たちの管理単位である予算番号レベルで予実管理ができますので、差異要因の可視化、各現場のマネージャの管理レベル向上に寄与し、ひいては企業全体での業績管理の水準向上につながります。実績については予算番号別の集計値から、さらに詳細な伝票明細にドリルダウンして分析することも可能となるでしょう。
では具体的にどのようにして伝票明細データを予算番号に紐つけるのでしょうか。弊社がこれまで経験してきた、各企業の取組みをご紹介します。
1.予算番号を、会計システムや業務システムに、マスターとして取り込む方法
予算管理システムで予算を計上した際に予算番号を付します。この予算番号データを抽出し、会計システムや業務システムに取り込んでマスター化します。伝票入力画面では、このマスターを参照して予算番号を選択できるようにします。実績データに確実に予算番号を紐づけることができ、コード間違いや、抜け漏れを防ぐことが可能です。一方で、会計システムや業務システムでは予算番号を選択できるようにするための改修が必要になります。
2.伝票明細の摘要や備考欄に、予算番号を保持する方法
会計システム側で、伝票の摘要欄や備考欄に、[]で括るなど適切な書式を用いて予算番号を入力させます。実績データを予算管理システムに取り込む際に、摘要から予算番号を抽出して割り当てます。伝票入力時に予算番号を正確に入力できるのかという課題はありますが、会計システムを改修することなく、予算番号レベルで予実の突き合わせが可能となります。なお、弊社のfusion_placeでは、書式パターンを指定して摘要などから文字列を抽出し、キーとしてデータを取り込むことが可能です。
3.伝票明細データを予算管理システムに取込み後、各部署で予算番号を入力する方法
伝票明細データを予算管理システムに取り込んだ後、各部署が、自部門で計上した伝票明細について、予算番号と紐つける方法です。2の方法と比較して、各部署は予算との対応を確認しながら、伝票明細に自ら予算番号を紐つけることができますので、間違う可能性も低くなります。
4.上記1または2と、3の組み合わせによる方法
原則として会計システムでの伝票入力時に予算番号を指定するものの、予算管理システムに取り込んだ後でも各部署が予算番号を修正できるようにする方法です。1, 2の方法では実績を計上する時点で適切な予算番号を入力する必要がありますが、経理部等で一括して仕訳を計上している企業などでは適切に予算番号を入力するのが困難な場合が多いでしょう。各部門では伝票実績を予算管理システムに取り込んでから、予算コードが適切に付与されているかをチェックし、必要に応じて修正できます。
■予算番号の発番方法
ここまでの話で触れなかったのは、予算立案部署で、自分たちの管理したい予算番号をどうやって発番するか、という点です。
1.予算番号マスター上で予算番号を発番する方法
一般的に考えられるのは、集中管理される予算番号マスターを設け、各部署が予算登録する際に、そのマスターに予算番号を登録していくアプローチです。この方法はわかりやすいですが、会計システム/予算管理システムと予算番号マスターの連携にリアルタイム性が要求されるなど、システム対応が大変です。また、予算編成途上で予算番号をタイムリーに登録できるかという業務上の課題も検討する必要があります。
2.各部署に予め連番範囲を与えておく方法
これに対して、私たちフュージョンズがこれまでのプロジェクトでご提案し適用してきたのは、発番時に予算番号マスターを使用しないアプローチです。予算立案部署ごとに、例えば001~999といった予算連番の範囲を与え、その範囲内の各連番を各年度の予算でどのように使用するかは、部署の裁量に委ねます。各部署は予算入力に際して、予算額とともに、使途など付随情報を連番ごとに入力します(この点は、数値情報と文字情報を同一の多次元DBで扱えるというfusion_placeの利点を利用しています)。予算編成を通じて使途は自由に修正できますし、特定の連番の使用をやめ、あるいは追加するといったことも各部署の自由です。
実績入力時のチェックのためにはやはり予算番号マスターが必要、ということであれば、予算が確定した後で、各部署で使用している連番とその使途のデータを抽出して、マスターに登録することが考えられます。予算番号を「年度(2019)+部署コード(1020)+連番(001)」すなわち「2019-1020-001」といったコード体系にしておけば、部署間で予算番号が衝突することもありません。 予算番号には、予算編成の過程では柔軟に運用したい一方で、実績入力時には、有効な予算番号を制限したいという、相反するニーズがあります。この方式は、そうした二面的要求に対応可能です。
■見通し管理への展開
明細別の予算編成/予算管理ができるようになると、当然見通し管理にも応用したくなります。明細での予算管理ができていればこれは簡単な話です。月次の決算が締まると、経過月の見通しを実績数値に置き換え、次月以降については、前月に報告した見通し数値を必要に応じて修正します。明細別に実績数値に置き換わっていくことで、高い精度で着地数値を見通すことが可能になります。見通しの管理でよく起きるのは、予定していた経費の執行のタイミングがずれるという状況でしょう。執行は明細単位で行われるので、このいわゆる「月ずれ」は明細レベルの管理をしていれば容易に把握できるようになります。
■現場志向と将来志向 ~ 予算管理の明日に向けて
予算管理システムの導入と言えば、エクセルの使い過ぎによる「エクセルメタボ」の解消に重点が置かれてきました。今もそれが重要であることに変わりはありませんが、多くの企業は、それに加えて、予算管理の次のレベルを模索されているように思います。その際に見落とせないキーワードが「現場志向」と「将来志向」であるとフュージョンズは考えております。 今回ご説明した「トランザクションベースド・プランニング」は、まさに、「現場志向」と「将来志向」の予算管理を実現する上で、基本となるコンセプトと言えるでしょう。明細別管理という考え方自体は目新しいものではありませんが、要件に正面から取り組んだツールが無かったために、組織全体で見れば、勘定科目別予算管理のレベルに留まらざるを得なかったという面があると思われます。 あるいは、多くのベンダーが、自社の持つツールの制約の枠内でソリューションを提案してきた、ということかもしれません。 しかし、そうした制約はすでに過去のものになっていることをご理解頂ければと存じます。