今日では、多くの企業が、複数の子会社を擁して事業を推進しています。ですので、子会社を含む経営管理、すなわちグループ経営管理が重要になっているわけです。
しかし、グループ経営管理のためのシステム基盤は、という話になると、大変残念な状況です。 グループ経営管理システムは、本社における連結ベースの管理会計システム(いわゆる「管理連結」システム)と、グループ各社の経営情報を収集するシステム(いわゆる「連結データ収集」システムからなりますが、今回は後者にフォーカスします。
連結データ収集システムの現状
グループ各社から月次で実績データを収集している企業は多いですが、システム支援の対象が、本社側のデータ収集業務にとどまっていて、グループ各社側に多大な負荷をかけています。
- 各社の基幹系システムと接続できていない、あるいは、できていても会計システムだけで、販売管理システムとは接続できていないため、データの二重入力が生じている
- 実績データにはふつう誤りがあるので、親会社への報告前にチェックが必要だが、チェックのための前年対比や予算対比すら難しく、また、誤りの修正も難しい
- 本社への提出前に、地域統括拠点でデータを集計して確認したいが、そうした利用はシステム設計上考慮されていないので、手作業(エクセル)で対応している
予算や見込みなど計画系業務はもっと悲しい状況です。
- そもそもシステム化されていず、すべてエクセルで処理している
- グループ会社側では手入力が前提とされているが、それに非常に手間がかかる
- データを入力できるだけで、分析できない
一点目。財務連結決算システムの延長で月次実績連結(いわゆる管理連結)を導入した企業が多く、計画・見込みへの配慮が抜け落ちがちです。実績と異なり、計画や見込みは P/L・B/S が完成してから提出すればよいものではありません。売上計画、在庫計画、人員計画、投資計画、経費計画というように機能別に作成され、会社横断的に擦り合わせされます。P/L、B/Sは結果であって、計画作成/調整過程が業務の中核です。P/L・B/Sベースの財務連結システムと計画業務の間には、業務の基本前提に関するミスマッチがあるのです。
二点目。実務的には、各社は、社内の予算集約をエクセルで行い、その結果を、本社提出用のエクセルシートに貼りつけます。エクセルのバケツリレーのようなことが行われているわけです。商品群の括りが変更されるなど、本社提出シートのレイアウトは毎期変わるので、それに合わせて各社側も集約シートを変えなければ、貼りつけさえまともにできません。
三点目。計画データも、ただ入力して提出すればよいというものではなく、予算であれば前年と比較してどうか、見込みであれば当初予算あるいは前回見込みと比較してどう変わったかといった分析が要求されます。分析のためには、入力した計画や見込みを前年実績や前回見込みと対比してわかりやすく表示する画面が必要ですが、そこまで配慮されていないシステムがほとんどです。
こうした問題は、本社の経理・企画部門も理解しています。しかし、もともと財務連結決算向けに設計されたデータ収集システムは、必要なデータを入力し、本社側都合で配賦などして、整合性をチェックするといったミニマムな要件に対応するだけでエクセルメタボ化するので、それ以上は拡張しようがないのです。
要約すると、グループ会社側から見て、現在のグループ経営管理システムには、以下のような問題があります:
- 各社の基幹系システムとのデータ連携が弱い
- グループ各社での計画業務(予算編成/見込)とのつなぎが弱い
- 報告データの入力システムであって、報告前の分析に対するサポートが弱い
解決の方向性
上述の諸問題が生じる理由の根本は、システムの設計思想が、本社が欲しいデータの収集管理に片寄りすぎていて、本社への経営報告という業務の全体像を見落としているという点にあります。
本社への報告もひとつの業務ですから、データを集めて、加工し、検証/分析して、提出するという一連のステップがあります。しかもその間を行ったり戻ったりします。提出という一点だけでなく、業務の全体を視野にいれてシステムを構築しなければ、使いやすいシステムにはならないし、業務の質や効率も改善されないわけです。
連結データ収集システムは本社都合で作られてきたシステムなので、こうした事態はある意味必然です。とはいえ、運用してきた中で、グループ会社側に大きな負担がかかることがハッキリしてきているわけですから、将来に向けて、見直していくべきでしょう。
私たちが考えるカギは、グループ各社が使える経営管理データベースを置くことです。各社のP/L・B/Sや売上高の詳細を取り込んで、報告数値を組み立てるためのデータベースです。そうしたデータベースを核に、以下のようなシステムを構築すればどうでしょうか:
- 実績データは、会計システムに限らず販売システムなどからも取り込めます。その際に、業務用のコードから経営管理用のコードに変換することもできます。コード変換テーブルはグループ各社専用で、各社の業務システムのコードに合わせて設定できます。データを取り込んでからコード変換の誤りに気づいたら、変換テーブルを修正して再度取り込むこともできます。業務にはイレギュラーがつきものですから、あらかじめ定まった運用手順に拘束されないことが重要です。
- 計画データは、各社のエクセルシートから直接取り込むことができます。もちろん、CSVファイルなどを介して取り込むこともできます。毎期変わる本社提出シートのレイアウトに合わせて自社のエクセルシートを変更するといった不毛な作業は不要になるはずです。
- 投入されたデータをもとに、前年対比/前回計画対比など報告数値を分析するためのユーザーインターフェース(UI)を提供すべきです。UIは、本社提出シートのレイアウトにはこだわらず、グループ会社側で使いやすい様式にすべきです。実績値をクリックすると伝票明細にドリルダウンするといった工夫も織り込みましょう。
- このデータベース上で数値を修正し、あるいは配賦などの加工を施し、確定してから本社に提出します。提出前のデータは作業中データであり、本社からは見えません。
実際に各社ごとにデータベースを置くとなれば運用が大変です。ですから、グループ各社が使える経営管理データベースは、仮想的なものでなければなりません。ユーザーからは各社ごとに独立したデータベースに見える一方で、システムアーキテクチャとしてはひとつのデータベースにすべてが収容されます。こうした仮想的データベースを、私たちはワークスペースと呼んでいます。ワークスペースを中核に置いたグループ各社経営管理システムが、次世代におけるグループマネジメントの基礎を提供するというのが、私たちの考えです。
自律と統合のグループ経営管理へ
いかがでしょうか。前段で、現在のグループ経営管理システムに色々な問題があることをご説明しました。そうした問題は、グループ経営管理という営みに対して「連結データ収集システム」が採っている未熟なアプローチに由来している、と私たちは考えています。
伝統的な連結データ収集システムは、グループ会社の経理・企画担当者にデータを提出させるというメンタルモデルに基づいています。このモデルでは、業務負荷は減らず、経営管理データの質や理解は改善されません。経営管理の質的向上と効率化を図るのであれば、本社の担当者に加えて現場の人々にも仕事のためのワークスペースと道具を提供し、その人々の能力を拡張しなければなりません。
グループ会社の人々を無意識のうちに使役の対象とみて規制するモデルから、自律的で貢献意欲をもった業務主体として遇するモデルへの転換が必要です。
ワークスペースを中核に置いたグループ各社経営管理システムは、そうした新しいメンタルモデルに基礎を提供するものです。
今回は、本社への報告業務というスコープでのお話しでしたが、本当は、グループ各社の社内各部署を巻き込んだ経営管理が、その背後にあるはずです。グループ全体の経営管理のレベルを高めようとするなら、いずれ、そこに踏み込んでいくことになります。
ワークスペースを中核に置いたグループ各社経営管理システムは、その領域への道を敷くものでもあります。このテーマに関しては、「自律と統合のグループ経営管理」と銘打ったセミナーをオンラインで開催しています。ぜひご参加ください。