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経営管理システムの課題と取り組み③ ― 環境適応型予算管理システムの構築(その1)

経営管理メールマガジン Vol.3 です。

月次予実管理の問題点

伝統的な予算実績管理(予実管理)の手法は、予算を月別に展開し、その予算と実績を毎月対比して差異を確認するというものです。予算に対する未達があれば次月以降での「リカバリ策」が求められます。売上や利益の未達があっても、期初に決めた予算を必達目標として努力を積み重ねていくことを前提にリカバリ策の報告を求めることが、予実管理の主たる目的であったわけです。

予算を主に各部署の業績評価と動機づけのツールと捉えると、こうした方法には合理性があります。しかしながらこのような手法は現代には適合しにくくなっている面もあります。

もっとも大きな変化は、2000年の会計ビッグバン以降、財務開示の重要性が増し、経営者の立場が、「報告を受ける人」から「投資家に報告する人」に変わったという点です。我が国の開示制度では、決算発表の都度、次期末の業績予想の報告が求められ、期中においても、予想が上ぶれ下ぶれする場合には業績予想を修正しなければなりません。こうした修正は株価に大きな影響を与えます。それでも修正が避けられない場合もありますが、その場合でも、筋の通った説明を市場は求めます。

このような状況にあって、予算管理制度には、事業と市場の変化をすばやく把握し、その財務的帰結(売上・利益へのインパクト)を予想し、必要な手を打つための情報と時間的余裕を経営者に提供する、という役割が求められているのではないでしょうか。

予算の機能の再解釈

予算の機能として、計画・調整・統制の三つが普通挙げられます。このうち、統制については、業績評価を通じた動機づけという意味合いが強かったわけですが、上述のように、現在では、今後の見通しを踏まえて計画を補正していくということの方が重要になって来ていると、私たちは考えています。統制の原語は「control」ですが、人をコントロール(統制)することから、計画と活動をコントロール(制御)することに切り替えて、その意味合いを理解していくべきです。

もちろん、業績評価が不要になる訳ではありません。しかし、業績評価は、予算とは一応切り離して実施することもできます。バランススコアカードのような手法をそのまま適用するかは別として、業績評価の尺度は予算達成度に限られません。一人当たり売上高といった構造的指標について目標合意していくプロセスは、いずれにせよ予算以外に必要です。

環境適応型予算管理

予算に求める機能をこのように捉えなおすことで、月次予実管理の方式も変わります。

第1の変化として、当月の実績が予算通りだったかではなく、今年度の残月の見通しがどのようであって、期初予算は達成できそうなのか、という点が報告の焦点になります。これが「予算達成管理」です。

それならば当月の実績はもう見ないのかというと、そうではありません。ただし、従来型の予実管理と異なり、当月実績は、予算と対比するのではなく前月時点での次月見通しと対比します。例えば1月度実績報告に際しては、「12月度報告時点の1月度見通し」に対して実績がどうだったかという分析・報告を求めます。これが第2の変化「実行予算管理」の導入です。



このような予算管理の方式を、私たちフュージョンズは「環境適応型予算管理」と呼んでいます。すなわち:

環境適応型予算管理 = 予算達成管理 + 実行予算管理

  です。

予算達成管理では、今後の施策の調整を行います。現時点での期末予想を踏まえて、投資や費用は絞るべきか、売上の上積み策は無いのか、といった対策をマネジメントレベルで検討する機会を、毎月、提供します。

一方、実行予算管理では、毎月の見通しを翌月には検証するというサイクルを繰り返すことで、各レベルのマネージャの経営管理センスを磨きます。翌月の見通しが立たないマネージャに、チームを任せておいて大丈夫でしょうか。一方で、たとえば、すべてのマネージャが見通しを大きく外すようであれば、足もとで何か急激な変化が起きているかもしれません。こうしたアラーム事象を可視化するツールとしても実行予算管理は役立ちます。

従来型の月別予算を用いた予実管理では、月別予算の精度が問題です。期初時点で予算を精度高く月割りすることが出来れば良いのですが、変動の激しい事業環境に置かれた企業にとって、これは容易なことではありません。予算に基準値としての合理性があればこそ、予算と実績を対比して意味があるわけです。月別予算が当てずっぽうでは、予実分析も形骸化してしまいます。その点、前月時点見通しに対する差異分析の方が、より真剣味をもって実行し易いのです。

さらに深く

今回は、環境適応型予算管理の考え方や、その背景にある環境変化について取り上げました。一方、この予算管理方式を実際に機能させるには、様々な面で実践上の工夫が必要と考えています。次回は、環境適応型予算管理の実施に向けた課題や、管理会計制度への影響など、このコンセプトに基づく経営管理システムを整備していく中でポイントとなる事柄についての検討を継続して進めようと思います。お楽しみにお待ち下さい。

なお、フュージョンズでは、経営管理クラウド「fusion_place」上で、環境適応型予算管理を実装したアプリケーションテンプレートをご提供しています。ご興味のある方はお声掛け下さい。