経営管理に関する主要課題
経営管理システムに関する課題と言えば、予算編成に要する手間の軽減を含む業務プロセスの効率化が、クローズアップされがちです。非効率なプロセスの改善は確かに重要ですが、それとともに、経営管理システムの構築は、経営を支える「しくみ」としての進化にも目配りしながら進めていくべきでしょう。 解決すべき課題は各企業の実情に応じてまちまちではありますが、フュージョンズとしては、多くの企業において以下のようなテーマが重要と考えています:
① 単体予算管理から連結中心の経営管理へ軸足を移すこと。
② 財務諸表だけでなくKPIや分析情報も含め、月次経営報告を高度化・早期化すること。
③ 予実管理中心から、見通を重視する予算管理制度へ移行すること。
④ 経理部や経営企画部ではなく、事業部門や拠点が主体的に分析・報告する分権型
予算管理を実現すること。
⑤ ERPを補完し、経営管理のために最適なシステム構成を実現すること。
今回は、①の「連結中心の経営管理へ軸足を移す」というテーマを取り上げます。お話が製造業をベースとしている点、あらかじめ、お許しをお願い致します。
連結中心の経営管理
今日では、多くの日本企業が海外に子会社を展開しています。その一方で、予算管理については昔ながらの単体中心の方式を引きずっていて、グループ経営がもたらす新たな課題に十分に対応出来ていないというケースも数多く見受けられます。
ある企業では、親会社の予算編成の過程で海外の製造子会社に予算提出を求めますが、その返答に非常に時間がかかっていました。子会社に尋ねると、売上予算の確定に時間を要しているようです。この子会社では、利益目標を立ててその達成に一喜一憂しているとも伝わってきます。
しかし、連結ベースのP/Lにおいては、製造子会社の売上は親会社の仕入と相殺され、利益に影響を与えません。製造拠点であれば、P/L上の利益よりむしろコストシート(製造原価報告書)の中身の方が問題の筈です。ならば、売上予算(親会社から見れば仕入予算)は、後付けで決定しても構わないかもしれません。この子会社に求めるべきは、利益目標の達成ではなく、コストに関する透明性の向上とその削減努力でしょう。
製造子会社に対するグループ経営上の役割期待を反映したレポーティング体系が構築されていないため、このようなズレが生じているのです。
これはあくまで一例です。経営の考え方により、製造拠点に利益責任を課す企業もあるでしょう。その場合でも、移転価格税制の制約によって、経営上の役割期待に関係なく大部分の利益が製造子会社側に残ることを考慮すれば、財務会計上の利益を製造拠点の予算指標としてそのまま用いて意味があるのか、といった疑問が湧きます。実際の取引価格とは別にグループ内取引価格を用意して管理会計上の利益を計算すべきかもしれません。
このようなことを踏まえると、単体を積み上げて連結を作成するという考えに拘らず、連結を単体に先行させた方が、むしろ、シンプルに予算を組み立てることができる可能性があります(注1)。
経営管理上重要な事項と、法人格や所属国がたまたま分かれていることに起因するテクニカルな問題を切り分け、前者にフォーカス出来るよう、予算を含む管理会計の組み立てを連結視点で見直すべきではないでしょうか。
どう取り組むか
この話の発端は、製造子会社からの予算提出が遅いということでした。この時点で、問題は、業務プロセスやそれを支える情報システムに係わることに見えました。しかし、実はその背後に、製造拠点のミッションと予算策定方式が整合していないことや、連結予算と単体予算の関係が未整理であることを含む経営管理制度上の問題があったわけです。
このように、経営管理の分野では、業務プロセスの問題の背後に経営制度面の問題が隠れているケースが多いのです。業務プロセスの問題と捉えて改善しようとすると経営制度上の問題にぶつかるというのはごく普通のことです。そのため、システム構築においては、両面への目配りが必要です。かといって、両面を一挙に解決しようとすると、問題が連立方程式のように複雑になり、解決の道筋が見えなくなります。上記の例で、連結中心の予算制度への移行と、現状の非効率な業務の改善を同時に実行しようとすれば、移行の過程で業務の混乱を招くかもしれません。私たちの経験では、制度の大きな変更と業務の効率化に同時に取り組むことには多大な困難が伴います。効率化すべき業務のゴール自体が変化してしまうため、ムービング・ターゲットを追うことを強いられるからです。とはいえ、現行の非効率な業務のあり方を引きずったまま、新しい予算管理制度を導入することにも、また難があります。
フュージョンズは、経営管理システムの基盤となるソフトウェアを用意し、その上で繰返し型のシステム整備を継続的に進めることによりこの困難な問題に立ち向かうことを提唱しています。その基盤ソフトウェアの基礎にあるのが、「情報系基幹システム」と呼ぶコンセプトです。 こうした統一プラットフォームの上でこそ、連立方程式のワナに陥ることなく、一歩ずつ、長い坂道を登っていくことができると考えるからです。今後このメールマガジンでは、経営管理に関する諸課題の分析とともに、そうした取り組みアプロ―チについてもご紹介していきたいと思います。
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注1
親子間の取引価格の決定にかかる時間と手間を考慮すれば、親会社の製造子会社からの仕入高予算が子会社の製造原価予算より後で決まる可能性さえあります。つまり、親会社単体の予算より先にグループ全体の連結予算が決まってくるという姿が自然かもしれないわけです。製造子会社ではなく販売子会社との取引を想定すると、この点はより明らかになるでしょう。第一段階としては販売子会社から顧客への売上について予算が策定され、それにもとづいて、親会社から販売子会社への売上高が決まってくるという流れになります。